今、僕は近くの高校に通っている。
大大祭の後、夏葉や歌夜と同じ学校に通う事になった。
…といっても、僕の場合は元々「あの」夏休みが終わったら
通う事になってた学校だけど。
そして、静波も同じ学校だ。
桜姫と御翼は、とりあえず外見的なところから
中学生って事で学校に行ってる。
だから僕達は毎朝一緒に登校はしても
途中で別れてしまうのだ。
いつものように他愛もない話をしながらゆっくりと歩みを進める僕達。
ただ、今日はいつもとは少し違った。
それは
「おやおや?
優太さんに、桜姫さんではありませんか。」
「おーー?
おまえら、こんな時間に何やってるんだー?」
歌夜と、御翼に出会ったのだ。
「あ、おはよう歌夜。」
「おはようございます。
こんな所でお会いするなんて奇遇ですねぇ。」
「本当だね。
色々あって今日は少し早く出たから…。」
「ほうほう。そうなのですか。
私達は、いつも大体これぐらいの時間ですよ。」
「そうなんだ。」
今、僕達は、はっきり言って桜姫と御翼を無視して話を進めている。
だって…。
「がるるるるぅぅぅ!!」
「ぴぴぴぃ!」
……昔から『ケンカするほど仲がいい』って言うよね。うん。
「さて、優太さん。
あの2人どうしましょう?」
「放って先に行ったりすると後でうるさいし…。」
「そうですねぇ。
それでは、止めましょうか。」
「桜姫っ!先行くよ!」
僕の一声。
「え?
…あ、ま、待ってよ優太!」
すぐに僕のところに戻ろうとする桜姫。
それを見て
「逃げるのか、バカトラーーー!」
と御翼が言っても
「御翼。学校に遅れますよ。」
の歌夜の言葉に、おとなしくなる。
「なーなー、ゆーたー。
『タナボタ』って何だー?」
唐突に御翼がそんな事を聞いてきた。
「へ?タナボタ?」
「そーだぞー。
昨日テレビで言ってたんだ。
よくわからなかったけど、楽しい感じだったぞ、タナボタ!」
テレビ?
楽しい??
で、タナボタ???
僕の知ってるタナボタって
「棚から牡丹餅」しかないけど…うーん?
「なんだー?
ゆーたも知らないのかー?」
「うーん、知らないと言うか…。」
答えに困っていると、歌夜が御翼のそばまで行って
「御翼。タナボタというのはですね…。」
「おー。タナボタっていうのはー?」
「棚に美味しそうな牡丹餅、の略なんですよ!!」
ちょっとちょっと!
自信たっぷりに嘘教えないでよ!
それの何が楽しそうなのさ歌夜!?
「おー、棚に餅かーー!
食べたいなー。美味しいんだろー?
楽しいな、楽しそうだなーー!」
はぁ…。
ちょっと、いや無性に疲れが…
「やれやれ…。
これだからバカドリは…。」
「む、なんだよー。」
「そんな事をテレビでわざわざやるわけないでしょ?」
「うー?
やらないものなのかー?歌夜ー??」
「ええ、やりませんねぇ。」
「! がーーーーーーーーん!!」
さらりと否定されてショックの色が隠せない御翼。
「あらあらあら、可哀想に。優太さんのせいで。」
「ちょっと待ってよ歌夜!
なんで僕のせいなの?」
「さっきの所で、優太さんが
『そんなわけ、ないでしょ!』ってツッコんでくれれば
それで終わったんですよ〜?」
わざわざ一生懸命不満そうな表情を作りながら歌夜が言う。
「あ〜、やっぱりわたしの相方は夏葉だけなのね…。
この想い、優太さんには届きませんでした。よよよ。」
…泣かれても。
「なー、それで、本当はどういう事なんだー?」
「ああ…うん。
御翼が言ってるのは、タナボタじゃなくてタナバタ…。
七夕祭じゃないかな?」
「まつりーーーーー!?」
僕の一言に、桜姫と御翼がキラキラ目を輝かせて僕を見る。
「う、うん…。」
「今日はささやかながら四方山桃源郷で露店も出しますよ。」
「あ、そうなの?」
それは初耳だった。
「祭だったんだ。
昨日、優太と母様が何か話してて母様の雰囲気おかしかったから
何かと思ってたけど…。」
桜姫がまくしたてる。
「でも、祭なら、母様の様子がおかしかったのは別の理由よね!
一緒に行ったら母様も元気出すわよね、優太!?」
…桜姫も気付いてて…心配してたんだ。
「そうだね。
今日の七夕祭には、姫咲さんも一緒かな。」
「とーぜんっ!」
桜姫がそう言った時、ちょうど中学と高校の分岐点に差し掛かっていた。
「じゃあ、今朝は此処までだね。
桜姫、ちゃんと勉強しないとダメだよ?」
「わかってるわよ!」
「御翼〜。頑張ってくださいね〜。」
「おーーーー。
行ってくるぞ、歌夜ーーーー!」
徐々に遠くなる2人の姿。しばらく僕達は見ていた。
それからしばらく歌夜と2人で学校へ向かっていると
見慣れた2人の女の子がいるのが目に入った。
「おやおや、あれは…。
夏葉〜!!」
歌夜が呼ぶ。
2人は振り返って、こちらへ走ってきた。
「おはよう、夏葉、静波。」
真っ先に僕が挨拶した。
「うん!
おはよう!優太君!!」
「おはようございます。優太さん、歌夜さん。」
「わたし達もいるわよ〜!!」
飛びぬけてハイテンションな声が後方から。
振り返ると物凄い勢いでわらびーが走って来ていた。
「はぁ、はぁ…お、おは、おはよう、ゆう、た、くん…はぁはぁ。」
「ど、どうしたの?
そんなに慌てて…!」
しばらく肩で息をしながらぜーぜー言ってたわらびーだったが
その後すぐ落ち着きを取り戻して
「だってだって!
優太君が、いつもより早く来てるから
もしかしたら、桜姫ちゃんも一緒かな、なーんてって!」
「……学校が違うから…ちょっと前に別れてるけど…。」
「ええーーっ…!そんなぁ……。
しょぼーん…。」
「だから言ったんだ。
人の話も聞かずに駆け出すお前が悪い。」
と、これまたいつもの調子で睦美さん。
「おはよ、みんな。
今日は優太君も一緒で大賑わいだね。」
「6人の大所帯だね!」
睦美さんの言葉に、夏葉が笑う。
と、同時に歌夜の眼鏡が光る。
「まさに!
女6人よればやかましい!!」
「優太君が男だーーーっ!」
「あうっ!」
歌夜の眼鏡が飛ぶ。
「大体、間違ってるっ!」
「あらあら…わたしとしたことが。」
もう次の瞬間には復活してる歌夜って、ある意味ほんと凄い。
「ところで優太さん?」
「な、何?」
「御翼と桜姫さんの変わりにわらびー達だと
ますますハーレムっぽいけど、気分はどうですか?」
「黙れーーーーっ!!」
「おうっ!!」
またも夏葉の強烈なツッコミ。
「では!」
もう復活。
「優太さん!
この5人の中から、好きな人を1人選んで…」
「なんでそうなるんだぁっ!!!」
「あうちっ!!!」
夏葉…苦労人型だね。つくづく…。
「ところで、そろそろ行かない?
遅刻したくないから。」
と、睦美さん。
「も、もうそんな時間なのですか?」
静波が驚きの声を上げる。
僕も時計を見て
「みんな…。少し走ろうか。」
そんなわけで駆け出した僕達6人。
ふと気になって、夏葉に声をかける。
「ねえ夏葉。
夏葉と静波は今日の七夕祭行くの?」
「うん、もちろんだよ!」
走ったまま笑顔で夏葉の返答。
「あの…夏葉様。
七夕とは…?」
「あ、そうか。静波は七夕知らないんだ。
うん、教えてあげるね。」
それから夏葉は七夕の事をそれは詳しく静波に説明していた。
勿論走りながら。
静波も走りながら聞いている。
よく息の一つも乱さないなぁ。
さすがと言うべき、なんだろうな。
「わらびーと睦美さんはどうするの?」
僕は今度は睦美さんに聞いた。
わらびーに聞こうと思ったんだけど、彼女はそろそろ
息切れを始めていたから。
「んー…。ま、行くよ。」
「わ、わたた、わらしも、いく〜…。」
わらびーが苦しそうに答える。
「あれ?優太君って、『睦美さん』って呼んでるの?」
夏葉が急に聞いてきた。
「え?あ…うん。」
なんとなく曖昧に返してしまう。
「ああ…さすがに『むっちー』はカンベンだから。」
さらりと言う睦美さん。
そんなこんなで学校に到着したときは
夏葉と静波以外の4人は大分息を枯らしていて……。