かぽーん
気がつけば、僕は露天風呂の隅で裸にバスタオル1枚の
美少女達に囲まれるわけで…。
「おーーーい、ゆーーたーー!
こっちで一緒に泳ぐぞー!!」
「御翼〜!
お願いだから胸は隠してよ〜!」
情け無い声の僕。
正直、微妙に本心と逆の事を言ってる気がするのがもっと情け無い。
「バカドリは1人で泳いでなさい!
優太!こっち来て背中流しなさい!」
湯煙の向こうから桜姫の声がする。
「そ、そうは言っても〜!」
「何〜?
シモベのくせに文句あるの!?」
「そうじゃなくて!」
お風呂が広いせいで桜姫の言う「こっち」はちょっと距離がある。
桜姫は隅っこの形状上袋小路のような形になった場所にいるみたいだが
そのそばに、狙ったかのように静波と歌夜の2人が並んで入浴している。
つまりこのまま桜姫の所に行こうとすると
あの「巨乳門」へ突撃するわけで…
ぼ、僕には出来ないっ!
「こら〜!ゆーーたっ!
早くしなさい〜!」
「だ、だから!!」
さすがに、どう説明したものやら。
「へっへ〜ん、ゆーたはバカトラの背中なんて流さないってよ〜!」
御翼の声がした。
「な、なんですって!!
優太はわたしのシモベなんだからっ!
嫌なわけ、ないんだからっ!!」
「でもゆーたは嫌がってるぞ〜。」
「むむむむむぅぅ…!
こらっ!バカドリ!そこになおりなさーーいっ!」
「やなこった〜!」
……いつものパターン。いつも通りに
桜姫と御翼の水中(湯中?)追いかっけこが始まるわけだけど…
正直、御翼に助けられた気分。
それに合わせる様に、歌夜と静波が溜息をつくのが聞こえた。
どうしたんだろう?
「歌夜さん、邪魔が入ってしまいましたね。」
「うーん、残念です。
せっかく優太さんに究極の選択を迫れたと思ったのに…。」
……君ら!
今度は僕ががっくりと肩を落とす番だった。
「ゴメンネ、優太君。
なんか、静波ってば歌夜と息合うみたいで…。」
隣に、夏葉がいた。
「う、うん…。
べ、別に、気にして無いから…。」
しどろもどろになってしまう。
バスタオル1枚の夏葉が、すぐそばにいる。
意識してしまうと、凄くドキドキして…
「夏葉様っ!」
静波の声が、飛びそうだった僕の理性を引き戻した。
声の主は、凄い勢いでこちらへやってきた。
「び、びっくりしたぁ…。
そんな大きな声出さなくても聞こえるよ。」
「あ、すいません!
その…今、優太さんの様子が何かおかしい気がして…。」
さすが静波。するどい…。
「…そっかな?」
夏葉は逆に無防備に僕の顔を覗き込む。
ああ、夏葉!谷間が、谷間が見えるって!!
声には出せず、たまらず振り返る。
けどそこには、さらに刺激的な光景…。
「あらぁ、優太君ってば、純情〜!」
皆と同じようにバスタオル1枚で、姫咲さんがいた。
「きっ…姫咲さん!?」
一瞬で舞い上がってしまいそうになったが、なんとか理性を保つ。
でも…大人の魅力というか…その…
「新鮮でしょ〜?」
いつものように、からかうような悪戯っぽい笑みと声。
正直…確かに新鮮。
姫咲さんが入ってくることだけは、今まで一度も無かった。
その間に夕食の準備をしたり忙しく家の中を駆け回っているから。
それがなんで今日に限って…!
「おやおや?
姫咲さんまでご乱入とは、優太さんはモテモテですね〜!」
少し遠くから歌夜の声。
「あははっ。歌夜の言う通りかもね。
今だけでもわたしと静波と姫咲さんの3人に囲まれて。」
夏葉が楽しそうに言う。
「か、からかわないでよ〜!」
僕にはそういうのが精一杯だった。
「それより優太君。
さっきの『疑問』に答えるわね。」
この状況が何事でもないかの様に姫咲さんは言う。
「疑問って、何?」
夏葉が口を挟む。
僕はさっき姫咲さんに訊いた事をかいつまんで話した。
「…いくら天上と繋がったとは言え、その穴は小さくて
事実上天上と地上は隔たれたままです…。」
その『疑問』を聞いて、答えたのは静波だった。
「ですから、神体玉を持っていないと
それは普通に地上で人間として生きることを意味するのです。」
「そうなんだ…。
でも皆は神体玉の力を使って、やっとの事でやってきたって…?」
「わたしのシモベなんだからもう少し考えてよね!
それぞれの社に安置してるに決まってるじゃない。」
次の疑問に答えたのは桜姫だった。
姫咲さんがやってきたのに気付いて即座にこっちへ来たようだ。
「あ…そうか。
で、でも…皆は調査隊として来てるんじゃ?
それで…ちゃんと天上に帰れるの?」
「それぞれの社は今でもちゃんと結界が張られてるわ。
その中に安置された神体玉は力を無くす事は無い…。
3人が自分の玉を持てば、それでおしまい。」
こんどは姫咲さんが答えた。
少しの間があった。
そして、次に質問したのは夏葉だった。
「それじゃあ、最初から神体玉を手放さなければいいよね?
なんでわざわざ?」
「んー、むつかしい事はよくわからないぞー!」
桜姫が相手しなくて退屈になったのか、御翼もここにいた。
ということは…
「わたしが思うにですね…
神体玉は、落とすと割れるというぐらいのコワレモノで…。」
「なんでだーーっ!」
「あうっ!」
やっぱり歌夜も。これで全員集合か。
まあ、今の夏葉の一撃で水中へ沈んじゃったけど。
「夏葉はいつも手厳しいですね〜。」
即、復活。もう驚かないけど。
「冗談はさておきまして。」
今の一撃のショックか、少し胸がはだけていたが
その乱れを直しながら歌夜が口を開いた。
「神体玉は実は天上の力そのもの。
持っていると、天上の時間の流れで地上で暮らす事になるから…
違いますか?」
「おーーっ!さっすが歌夜だぞーーー!
教えてもないのに、どうして神体玉の事そんなに知ってるんだ?
なあなあ、歌夜〜!」
御翼が目を輝かせて歌夜に詰めよる。
「ざ〜んねんでした〜。
ただの憶測が、たまたま当たっただけです〜。」
「そうなのかー?ちぇー。」
「疑問はコレで全部?」
優しい声で、姫咲さんが言った。
僕も、夏葉も、歌夜も
特に何も言わなかった。
「じゃ、この話はおしま〜い。」
パンパン!と手を叩く姫咲さん。
解散〜、の合図。
みんな散り散りに、思うままにこの露天風呂を楽しんでいた。
ちょっと疲れたのか、桜姫と御翼の2人も
今は大人しく、気持ち良さそうに
お風呂を満喫していた。
でも…僕だけは、晴れない思いをさっきから持ってる。
聞くに聞けない疑問…質問が浮かんだせいで。
『調査はいつまで続くの?』
もし長期のようだったら…
地上で、人と同じ時間を、長くすごしたあの3人を天上で待つのは…
その時の3人の胸の内…想像は、出来ないよ…。
「ね、優太君。」
「何?姫咲さん。」
「…んーん。明日、七夕だなぁって。」
「あれ?
姫咲さん、七夕なんて知ってるんだ?」
「あら。私はあの子達より長く地上人やってるんだから。
七夕の知識ぐらいあるわよ。」
そう言って、何時の間にか星に染まった夜空を仰ぐ姫咲さん。
その雰囲気に僕は思わず息を呑み…
何か話せる雰囲気じゃ、ない気がした。
「明日は…七夕。」
復唱する姫咲さんの真意。
僕にはさっぱりわからず。
「そろそろ上がろう、ゆーた〜っ!」
その桜姫の声が、妙に遠く聞こえた。
--前日編 終わり--