とらかぷっ!あなざーすとぉりぃ
〜七夕騒動:前日編〜
文:K&H
四方山大大祭。
僕達6人の「祭り」は
「全てが幸せな結末」を迎えることで
本当の意味で、終わった。
大きな神と桜姫。
僕と、姫。
黒の巨人達…
美津羽様…羽ちゃん。
結局の所、意外とわからない事を残したままで。
無論、確証に近い自信がある推論はある。
ただ、全ては僕の中で形作られた憶測に過ぎない。
だから…僕はこの事を誰にも話していない。
可能性の輪から引き上げられた僕は
いくつもの可能性の中から、全てが幸せな結末を選択した…
なんて、「輪の中」にいた彼女達が信じるわけもないしね。
といっても、言ったら言ったで信じそうなんだけどね。
彼女達は、そういう5人なんだから…。
そして、祭りが終わり、事実上僕は…僕達は
また「輪」の中に戻ったと言っていいと思う。
数多ある可能性の中から常に1つを選択していく世界に。
ただし、それはとてもとても長く大きな「輪」
きっと半周もしないうちに僕達はこの世を去っている程の。
だから、僕達は「輪の中」を精一杯楽しむことにした。
「輪」に名前をつけて。
「輪」は、それ自体が巨大な「祭」だから。
━━━━━━人生、って名前の祭を楽しむんだって。
「優太、ゆーたっ!」
「え?」
家の屋根に寝転がり、何となく夕日を眺めながら
ぼんやりと考えていた僕。
それを呼ぶ声は、下から聴こえてきた。
上半身を起こして返事しようとした時には
声の主は何時の間にか僕のそばまで来ていた。
「…桜姫」
「もうっ!そんな所で何やってんのよ!
さっき母様が呼んでたの聞こえなかったの!?」
「ええっ!?姫咲さんが僕を?」
「そうじゃなくて!
お昼ご飯が出来たのっ!!
日曜日だからってぼんやりしちゃって!」
「あ…う、うん。ごめん。」
ついつい、桜姫の迫力に気圧されて謝る僕。
なんで治らないんだろうなぁ。
「とにかく、優太が一緒じゃないとご飯食べれないんだから
早く降りて来てよね!」
それだけ言って、桜姫は家の中に戻ってしまう。
桜姫の姿が見えなくなるまではすぐだったけど
それから僕が立ち上がるまでには少しだけ時間があった。
ちょっと考えてしまったからだ。
最初はちょっと日向ぼっこのつもりだった。
なのに、途中から大大祭の事ばかり考えて…
気がついたら桜姫に呼ばれていたわけだけど。
確かに大大祭は、大変であったし命懸けでもあったけど
それでも楽しかった。
でも、今が楽しくないわけじゃないのに。
なぜ急に大大祭の事を深く思い出したのかな。
それに…何だか凄く懐かしくて、ちょっと
センチメンタルっていうか…そんな感じだ。
なんで、急に…?
考えても答えなんて無い。
そう思った僕は、その時やっと立ち上がった。
その時、目に見えた光景。
━━━━━━短冊。
「そうか…もしかしたら
もうすぐ1年だから、感慨深くなっちゃったのかな…?」
1人つぶやいてみる。
無理矢理答えを導く自分の言葉に、1人で肩をすくめてしまう。
「ゆーーーーーたーーーーーーっ!!
早く降りてきなさーーいっ!」
怒号。
これは、怒られるな…。
苦笑いを浮かべる自分を自覚しながら
「もう降りるよーーっ!」
7月6日。日曜日。
もうすぐ、あの大大祭の開始から1年が経つ。
なんとも言えない不思議な気持ちを抱きつつ
僕は食卓へと足を向けるのだった。
「ゆーたっ!遅い!!」
早速桜姫の怒りが炸裂する。
「ゴメンって。」
「このわたしが呼びに行ってあげてるんだから
さっさと降りてきなさいよね、もう!」
姫咲さんが作ってくれたお昼ご飯。
今日は普段より幾分豪勢に作られている。
それを前に、我慢の限界といった感じで
怒りをあらわにする桜姫がいる。
僕がさっきまで1年の感慨にふけっていたことが
嘘のようなその声、しぐさ、表情。
僕は、そんな桜姫に不思議な安堵感を憶える。
「優太君。
こんな言い方しか出来ない娘だけど、許してやってねー。」
台所から聞こえる姫咲さんの声。
僕が中々降りてこないから、味噌汁を温め直してるみたいだ。
「こんな言い方って何よ、母様!」
「いつまでも優太君をしもべ扱いしてる言い方って事。」
怒る桜姫に対し、落ちつた反応の姫咲さん。
「僕なら気にしてないからいいよ。
というか…もう慣れちゃってるから。」
苦笑い。
「そーよっ!
優太だってこう言ってるんだから、コレでいいのっ!」
立ち上がり、胸を張る桜姫。
こうしてみると…結構成長したような…。
って、僕は何を考えているんだ。
こんな時に、姫咲さんだってそこにいるのに。
上坂優太のばかバカ馬鹿っ!
「…どうしたの?優太君?
急に首を振り回したりして…。」
3人分の味噌汁をお盆に乗せた姫咲さんが
不思議そうな顔で僕を見つめていた。
何時の間にか戻ってきていたみたい。
「桜姫もいろんなところが成長したな〜って…」
なんて言ったら、桜姫に殺されかねない。
僕はとりあえず笑って誤魔化した後
「と、とりあえずお昼にしようよ!遅くなったし。」
「遅くなったのは優太のせいでしょっ!!」
「はいはい。夫婦喧嘩は犬も食わない…ね。」
「姫咲さん!」
「母様!」
姫咲さんの言葉に僕達は2人揃って耳まで真っ赤にしながら
2人揃って声を上げてしまい
2人揃ってお互いに顔を見合わせ
2人揃って視線をそらすという…
「うんうん。いいわねー。青春青春♪」
1人、姫咲さんだけが呑気だった。
昼食が終わると、桜姫は買い置きの煮干を食べながらテレビを見ていた。
何時の間にか、そのままにゃふっている。
何だかとっても微笑ましい気持ちになりながら、僕は
姫咲さんの手伝いで掃除や片づけをしていた。
僕も家事全般は好きでやるけど、この人(元神様だけど)には敵わない。
的確というか、無駄が無いから、正直家事の勉強をしてるみたいだ。
「優太君は立派なお嫁さんになるわよ〜。」
とは、姫咲さんの弁。
僕これでも男なんだけどな。
「優太君。一休みしましょうか。」
「そうしようか、姫咲さん。」
彼女の提案で僕達は縁側に腰掛けて休憩する事に。
桜姫はといえば、あのまま寝てしまっみたい。
「そういえばね、優太君。
さっきあなたのお父様から電話があったわ。」
「お父さんから?どうしたんだろ。」
「ふふ。今年はちゃんと予定通りに帰れる、と。」
「そうなんだ。
でも去年は、祭の前も後も急だったからまだ油断出来ないなぁ。」
「そうかもね。」
姫咲さんが笑う。
この約1年の間に、すっかり僕や桜姫の保護者が板についた姫咲さん。
僕の両親が、ちゃんとこの家に戻ってくる。
それをこの人はどう思うんだろう…?
「去年は大変だったものね。」
僕の想いを知ってか知らずか姫咲さんが同じ話題を続ける。
「そ、そうだね…。」
急に話題を変えるのもなんなので僕も乗る。
「あの時の優太くんの驚き方ってば面白かったわよ〜。
僕の食事とかどうするの!なんて叫んだりして。」
「大大祭が終わった後のお父さんからの電話かぁ…。
急に『飛び入りの仕事が入った、今度は1年海外だ』だもんなぁ。」
思い出しながらぼやく。
「姫咲さんや桜姫がいなかったらどうなってた事かって思うよ。」
「あら、優太君なら家事全般問題無いんだし
平気だったんじゃないかしら?」
「…どうかな。
今の僕は、今の生活以外の生活が想像出来ないから…。」
「…そっか。」
少しの間を置いて姫咲さんが呟く。
どこか寂しい響きがあったのは僕の気のせいかな…?
少しの間。
夏の太陽は、もうすぐ夕方になろうとする今も眩しい。
しばらく僕達は、暖かい沈黙の中にいた。
お互いに言葉は無いけれど、気まずいわけじゃなくて。
セミの鳴き声が、心地良いと感じた。
「優太君は、あの頃に比べると
ちょっと変わったわよね。」
不意に姫咲さんが口を開いた。
「…僕、何か変わった?」
「そうねぇ…私に『タメ口』きくようになったわね。」
「家族と思ってもらっていいから気にしなくていいって言ったの
姫咲さんでしょ…。」
少しだけ、怒ったように。
そして
「よく憶えてないけど、姫咲さんだって僕の事
優太『君』って言うようになったじゃない。」
「あら、最初からじゃなかった?
ふふ、まあいいでしょ。」
「うん、悪いわけじゃないから。」
表情を崩す。
ふと思い返せば、逢って間もない頃はこんな砕けた、そして気さくな
雰囲気の人でもなかった気はする。
…といっても、これが本来の姫咲さんなのだろう。
桜姫の事を思えば、納得できる。
ふと、後に気配を感じる。
桜姫が起きていた。
「ふにゃ…優太と母様…何してるの?」
「ん…日向ぼっこ…かしらね?」
「わたしも〜…
ふにゃ〜〜」
寝ぼけているのか、僕の隣まで来た後
丸くなってその頭を僕の膝に乗せてきた。
「ゆ〜た…。
撫でていいのよ…。撫でなさい、ゆ〜た…。」
「…はいはい。」
なでくりなでくり
「にゃふふ〜…。」
幸せそうな桜姫。
なでくりなでくり
なでくりなでくり
「にゃ…にゃふふふ〜〜……。」